続いて21-40位、まずは31-40位まで。
31. レヴェナント: 蘇りし者
32. 黄金のアデーレ 名画の帰還
33. リリーのすべて
34. ヘイル、シーザー!
35. アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち
36. ある天文学者の恋文
37. アメリカ・ワイルド
38. デッド・プール
39. ズートピア
40. 二ツ星の料理人
『レヴェナント: 蘇りし者』はアカデミー賞の監督賞・主演男優賞・撮影賞に加えて、2016年のクマ・ムービー・オブ・ザ・イヤーに燦然と輝く大傑作ですが、別記事にも書いた通り、個人的な感覚では映画として観たときには叙事的な方向性に触れている感があってこの位置づけです。あんまり乱暴な言い方をするのもよくないんですが、端的にいうと「ストーリーではない」というか。この辺りは今後も自分の中でのテーマになる部分ではないかと思っています。
『黄金のアデーレ 名画の帰還』は個人的には大好物という感じの映画なのでもっと上の順位でもいいくらいなのですが、「ナチスに奪われた芸術品を取り返す」映画ということで今後も自分史上の最上位に残り続けることは間違いないと思います。映画というものが描ける真実というのは、それこそ一つ上の『レヴェナント』のように「生きる」「死ぬ」というレベルのものもあれば、この映画のように個人の生き死にには影響のない、生物にとっての余剰物というレベルでの「価値」というものまで幅広くあるわけですが、後者のように「いざとなれば捨てられるもの」「でもどうしても捨てたくはないもの」みたいなところに、自分自身のスイートスポットがあるんだなぁ、と、この31位と32位の並びを見て改めて思います。完成度や興行収入だけで言えば本来、並ぶような二作品じゃないわけで。
『リリーのすべて』については別記事で結構しっかり書いていてもう付け足すべき話はないのですが、あえていうならやはり監督はトビー・フーパーではなくトム・フーパーだ、ということを自戒を込めてもう一度書き留めておきたいと思います。
『ヘイル、シーザー!』はなんと公式サイトがすでに消えているという状態なのですが、これはちょっとちゃんと取り上げておかなければいけない大傑作でした。ジョージ・クルーニーが、スカーレット・ヨハンソンが、そしてチャニング・テイタムが輝きまくっている、というばかりでなく、オールデン・エアエンライクという伏兵がレイフ・ファインズ相手に一歩も引かない世紀の名演を見せているということで、ちょっと特別に画像も貼って記念しておきたいと思います。

作品自体が1950年代のハリウッドを舞台に高らかに歌い上げた映画讃歌というか、あるいはそうした映画に捧げられた多くの人々の「愛情」へのトリビュートという感じなのですが、コーエン兄弟はさすがにその辺を綺麗なラインにまとめあげていて「嫌ではないけど鼻につく」というか、愛すべき脂っこさというか、意図的なやりすぎ感が素晴らしかったです。いい映画だったなぁ。
『アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち』は第二次世界大戦時のナチスドイツの戦犯の中でも最後にして最大の大物であったアドルフ・アイヒマンの裁判のテレビ中継に挑んだチームの話ということで、今年はすでに触れた『帰ってきたヒトラー』や間接的に関わりのある『黄金のアデーレ』、それにこの後出てくる『サウルの息子』も合わせて「ナチスドイツもの」の一角を占めているわけですが、やはりこのグループは重いというか何というか、他の映画とフラットに並べるのが難しいところがあります。しかし、そういうのを一旦とりあえず避けて考えると、この映画については国内ではマーティン・フリーマンを前面に出して売り出されていたような気がするんですが、実際にはアンソニー・ラパリアが素晴らしい演技をしている傑作だったりします。ナチスドイツによる戦争犯罪という超弩級のテーマに飲み込まれず、信念の人と、その信念と現実の交点というか、激突というか何というか、そういう「映画としてのモチーフ」がしっかりと描かれていたというところを個人的に評価してのこのポジションです。
『ある天文学者の恋文』はジュゼッペ・トルナトーレとジェレミー・アイアンズが、何というか非常に身勝手かつ甘っちょろい男のナルシスティックな幻想を好き放題に描いているという点で、前述の『追憶の森』や、あるいは新海誠の過去作に通じるものがあると思うんですが、ジェレミー・アイアンズと劇中の美しい風景の加点でこの位置です。本来、「ダメだよね、こういうのね。甘いよね。許されんよね」という作品なのは間違いないんですが。
『アメリカ・ワイルド』はこれはちょっと他と毛色が違うのですが、アメリカの国立公園の「絶景」という言葉でも生ぬるいほどの「大絶景」の映像を集めた記録映画的な作品です。『シビル・ウォー』のIMAX上映の際に予告編を見て度肝を抜かれてしまい、これは必見ということで帰省にかこつけて北九州のスペースワールドにある最大クラスのIMAXスクリーンで観てきたものです。施設はすでにもう限界に近く(スペースワールド自体、来年で閉園予定とのこと)、夏だというのに空調は故障(しかも「修理の予定不明」)していてスクリーンは傷と汚れでボロボロ、さらに投射のピントも合っていないという、有り体に言って「劣悪」な環境での完勝だったのですが、それでも作品は最高でした。純粋なコンテンツ力というか映像力というか。個人的には創作者の作為が自然物に勝てないようではいかんと思う方なんですが、そういう個人的な信条を圧倒するレベルの自然がそこにありました。これはいつか機会があれば、別の環境で再見したいと思っています。
『デッドプール』は単純明快な娯楽作なようでいて、本来扱いの難しい「第四の壁を超えてくる異色なアメコミヒーロー」という素材を扱うにあたって意外と巧妙な作りになっていたりする抜け目のない作品なのですが、こういう展開ができるのが20世紀フォックスの立ち位置の面白さなのかもしれません。MCUの方でも『アントマン』みたいな作品はあるものの、フランチャイズとして巨艦化しすぎた感があってあちらは逆に今後どこかで行き詰まるんじゃないかという不吉な予感があるわけですが、X-MENシリーズがぶっちゃけ大成功とは言いがたい状態にあるフォックスにはこの路線が活路になっていく気がします。だからファンタスティック・フォーとかでこけてないでもっとちゃんと考えればいいと思うわけです。(上から目線)
『ズートピア』は間違いなく今年一番笑った映画でした。というか、フラッシュのくだり。あそこはちょっと記憶にない、凶悪ともいうべきレベルで笑わされたわけですが、笑ってばかりもいられないというか。別記事にも書きましたが、今作に代表されるような「プリンセスものではないディズニー」は今後、ものすごく強力な「脅威」になっていくのではないかという気がしています。脅威というのはちょっと言葉が悪いのですが、何というか既存のもろもろに対しての破壊的なポテンシャルを秘めた新興勢力という意味では、少なくとも油断をしていてはいけないだろうな、というか。もちろん鑑賞者の立場としてはそういうのも全部大歓迎で色々競合しながら相互発展していくのがベストシナリオな訳ですが。今後に注目です。
『二ツ星の料理人』はブラッドリー・クーパーがミシュランの星三つを目指す料理人を演じた作品なのですが、原題の方の『Burnt』という言葉がより端的に表しているように、執念というか妄執に取り憑かれた主人公が周囲を焼き払いかねないレベルで燃え上がり、やがて火が消え、そして、というストーリーで実はスポ根ものというか、ボクシング映画的なジャンルの話です。その観点では実に誠実でストレートな作りになっているので結構人にもオススメしやすい良作だったりもするのですが、個人的には「マルチアクセントタレント」として最近メキメキと立ち位置を確立しつつあるダニエル・ブリュールが最高でした。今作ではフランス訛りです。
続いて21-30位。このあたりはもう上位作ですね。
21. バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生
22. 写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと
23. マジカル・ガール
24. シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ
25. ルーム
26. セルフ/レス 覚醒した記憶
27. マネーモンスター
28. ヘイトフル・エイト
29. アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅
30. ちはやふる ー下の句ー
『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』は別記事の方に色々書きましたが、突き詰めると「近年稀に見るレベルの最高の予告編(ワンダーウーマンの)であり、かつ予告編がその後の本編より優れている可能性が非常に高い」という感じでしょうか。
『写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと』も、これまた別記事で割としっかり書いているのでここでは繰り返しませんが、やはり自分自身、趣味で写真を撮っている身としてはより一層心に迫るものがあるというか。観た後で写真が撮りたくなる作品というのはやはりいいものです。
『マジカル・ガール』は今年一番、致命的な映画でした。別記事に書いた通り、完全に不意打ちで食らってしまったので本当にとんでもない衝撃を受けたわけですが、それは当然ながら制作者が意図した「攻撃」であって、その直撃を受けたというのは鑑賞者としては本懐というか何ら悔いるところのない非常に真っ当な体験だったと思います。実際のところ、こういう衝撃についてはどうなのよ、という気もしなくもないのですが、映画というものを2時間前後の体験としてデザインする、という考え方に立脚するなら本作はやはり傑作の一つと呼んで差し支えないと思います。
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』も非常に楽しめた傑作なので本来ならもっと上でもいいはずの作品なんですが今年の豊作ぶりにおいては20位にも入れないという異常事態です。MCUの現状は、一作あたり2時間程度で完結して、それ単体でも楽しめつつ他作品と整合し、その上、そこから入ってくる新規参入もある程度はカバーしなければならないという、映画製作という営みが本来想定していたスコープをはるかに超えたところでの複雑かつ高難度なミッションに成功しなければならなくなっているわけですが、それをちゃんと及第点超えて安定供給し続けているマーベル・スタジオの凄みというのはやはり特筆に値すると改めて思います。作品自体については別記事の方で。
『ルーム』も凄まじい傑作でした。これについては衝撃のあまり筆が滑りまくった記憶がありますが、今読み返してみるとやはり他よりはるかに長い文章になってしまっていますね。もう付け足すところもないので、名作だったなぁ、というところであとは割愛。
『セルフ/レス 覚醒した記憶』は今改めて思うと何でこんな位置に来てるんだっけ、という感じなのですが、単にベン・キングズレーがよかったとかマシュー・グードいいよね、とかいうところを超えて、作品のテーマの扱いにおいて琴線に触れるものがあったということだったはず…今ちょっと明確に思い出せませんが、薄ぼんやりした記憶をたどって考えるに、変にアクションシーン入れずに興収とかの色気も出さずにストイックに作ってもよかったんじゃないかという気がしてくるので多分そういうポテンシャルのある映画だったのでしょう。もう一回観ないといけないですね、これ。
『マネーモンスター』はジョディ・フォスター監督、ジョージ・クルーニー主演、ジュリア・ロバーツ助演というスーパービッグネームが、その経歴と名声から自ずと生まれるキラキラした輝きを一切排除してソリッドにまとめあげたリアルタイム・シチュエーション・サスペンスで、予告編の段階から期待感マックスだったわけですが、それに違わぬ傑作でした。そもそも「ジョージ・クルーニーがホストする番組が生中継の最中に乗っ取られる」というプロットの時点でもうそれは面白いだろうという話なわけですが、ジョージ・クルーニーの「自分に何が期待されているか」ということのわきまえっぷりが素晴らしくて、作品を単に「プロットの勝利」というところを超えたレベルに引き上げています。この辺は多分にジョディ・フォスターの才覚というのもあるんだと思いますが、ちょっとこの先も長いのでここではこの辺で。
『ヘイトフル・エイト』は、作品自体については『ルーム』同様、筆が走りまくったケースなので別記事の方でカバーされているものとして割愛しますが、今年一年を通じて、ある意味で「基準」となった作品でした。リアルタイムでランキングを更新していくにあたって、「この作品は『ヘイトフル・エイト』より上か下か」みたいな判断が習慣化していたんですがそういう意味でも自分の中で非常に安定した位置付けの作品だったということなんでしょうね。
『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』は、何はなくとも「ビジュアルの美しさ」ということだけでも非常に高く評価したい作品です。というと逆にマイナスに聞こえるような気がしなくもないですが、ティム・バートン×ディズニーという組み合わせでどれだけの絵が作れるか、というのはやはり作品の価値として他の部分に勝るとも劣らない重要なポイントとなりうるわけです。加えて、やはりプロット的にもキャスト的にも隙がないというか卒がないというか、ちゃんと手堅く作ってあるわけで、こういう作品をちゃんと世に送り出し続けてくれる、というところに、ディズニーの偉大さというものがあるような気がします。いい作品だったなぁ。
『ちはやふる ー下の句ー』は、あくまで『上の句』を受けての『下の句』だと思うので単独で語るのも、という気はするのですが、あえていうならやはりクイーン若宮詩暢を演じた松岡茉優は尊い、というところでしょうか。クイーンとしての存在そのものの説得力が完璧でした。
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ということで、21位から40位まで。既に相当数の傑作が含まれていますが、真の傑作はさらにこの後です。おそるべし、2016年。