[movie] 2016年日本公開映画 個人ランキング 61−77位
去年の大晦日にこんな記事を書きました。
2015年は個人的には例年になく劇場に通った1年であると同時に、例年になく傑作の多かった1年でした。というか、異常としか言いようの無いレベルの高さで、たまたまそういう年に劇場に頻繁に通えたというのは本当に僥倖だったと思います。
本日はそれから1年後の2016年12月31日ですが、やはり全く同じことを書かざるを得ない状況だったりします。またしても、しかも2015年を超えて、かつてなく頻繁に劇場に通い、かつてないレベルで傑作に恵まれた1年でした。
この1年間に観た、日本で今年封切られた映画は合計78本。後半、色々と忙しくて失速してしまったのですが、そういう変動要因を勘案すると、この辺りが自分の最高速度ではないかという気がします。やりきった感も割とあり。
昨年来、観た映画は常にリアルタイムでランキングに組み入れるということをやっているので今年もその78本について、主観的な順位づけは終わっているので、昨年にならって一つ一つを振り返りながら、下から順に並べていきたいと思います。(以下、作品タイトルのリンクは過去記事もしくは公式ページへのリンクです。)
71-77位
71. ディーパンの闘い
72. ロブスター
73. 白鯨との戦い
74. ミラクル・ニール!
75. パディントン
76. 完全なるチェックメイト
77. Mr. ホームズ 名探偵最後の事件
71位の『ディーパンの闘い』は別記事をポストしていて言いたいことは概ねそちらでカバーしているのですが、このレベルでも71位になってしまうというのが途方も無い話です。「よかった」か「よくなかった」かで言えば、明らかに前者なんですが、比べていくとこの辺になってしまうんですねぇ。
『ロブスター』は「近未来、カップルを成立させられなかった男女はペナルティとして動物にされてしまう」というダークで奇妙な世界を舞台に主演のコリン・ファレルが眉毛と口髭から物憂げさを炸裂させているんですが、ラストシーンや劇中のベン・ウィショーのエピソード等々、「カップリング」とそれに伴う「投影」的な行為というか事象の扱いが印象深い作品でした。
『白鯨との戦い』は、ロン・ハワードにクリス・ヘムズワースという『ラッシュ/プライドと友情』をやらかしたコンビの作品で、こういうのは嫌いじゃないんですが、白鯨の方にフォーカスを当てた大傑作のポスターによって醸成された個人的な期待感がスカされた、ということも影響しての順位でしょうか。こちらは別記事ありますので、詳細はそちらで。
『ミラクル・ニール!』はサイモン・ペッグが演じる、作家としてデビューする夢を見つつもパッとしない人生を送る。パッとしない独身教師が、ある日突然、「万能の力」を授けられる、というプロットで、徹頭徹尾ブリティッシュなコメディでした。やはり人間、この手の毒も定期的に摂取していく必要があります。
『パディントン』もそういう意味では同じカテゴリの「ブリティッシュ」なやつですが、こちらは別記事ありますので割愛。一言で表すなら、歯ブラシ。
『完全なるチェックメイト』は今思い返してもなんとも「惜しい」感じの作品です。題材も役者も作品の雰囲気もことごとくストライクゾーンなんですが、最後に散らかるというか、後で考えたらストライクゾーンを通ってたそのボール、野球のボールじゃなかったな、みたいな。あと、今年はリーヴ・シュライバーの当たり年みたいな感懐があるのですが、これがその最初の一発でしたね。
『Mr. ホームズ 名探偵最後の事件』も、惜しいとしか言いようがない作品でした。イアン・マッケランで晩年のホームズ、とかいう黄金の組み合わせを見出しておきながらこの結果、ということは、ある意味驚くべき話と言ってもいいのかもしれません。
61-70位
61. グランド・イリュージョン 見破られたトリック
62. アウトバーン
63. スロウ・ウェスト
64. フィフス・ウェイブ
65. イット・フォローズ
66. ライト/オフ
67. HiGH&LOW
68. BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント
69. レッド・タートル ある島の物語
70. 帰ってきたヒトラー
『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』は、前作が個人的な大ヒットだったということでかなり期待していたんですが、その期待が高かった分、マイナスに働いた部分と、逆に前作の余勢を駆ってプラスに働いた部分があるような気がして、客観的な評価になっていない自覚はあるのですが、その辺の諸々を込みで大体このくらいの位置という感じです。ジェシー・アイゼンバーグやウディ・ハレルソンに対してダニエル・ラドクリフ、というのは素晴らしいマッチングだと思うのですが、その先に突き抜けきれなかったのが残念。あと、マーク・ラファロがハルクにならない、というのも一回やればもういいだろう、という気はします。(なりません。)
『アウトバーン』は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』で一皮剥けた感のあるニコラス・ホルト主演のカーアクション映画で、映画の他のどの要素よりも先に配給側の思惑が前に出てきてる感があるのですが、助演のベン・キングズレーとアンソニー・ホプキンスが、まるで午後のティータイムを楽しむかのようなリラックスぶりで参戦しており、その辺のポイントが個人的には非常に高く効いている気がします。ニコラスの必死感、ベンとアンソニーの脱力感、そしてヒロイン、フェリシティ・ジョーンズの第三者感。この辺りのキャストの力学が楽しい作品でした。あとご当地ムービー的な側面も見逃せません。ロケ地ポイントも加算です。
『スロウ・ウェスト』は「公式サイトが見つからない」という有様なので色々とお察しなのですが、マイケル・ファスベンダーが主演・製作総指揮の西部劇ということで個人的には外すことができない感じがあります。内容もまぁ「ああ、そういう感じにしたいのね」という一歩引いた感じになってしまうのですが、あのラストの落とし方は嫌いじゃない、というのと、あとはやはりファスベンダーのガンマン姿というのがあるのでとりあえずこのくらいの順位で。
『フィフス・ウェイブ』はクロエ・グレース・モレッツ主演の「宇宙人が攻めてきたぞ!」ムービーですが、全編にただよう小学五年生感が極めて濃厚で、記憶の奥底の変な部分が発熱してくる感じの作品で妙な魅力があります。作中でも重要な役割を担う「大佐」がリーヴ・シュライバーというのがまたたまらないわけですが、こういう映画は本当に地上波でヘビーローテーションして世の中のボンクラ小学生たちの健やかな育成の一助として欲しいものだと切に思います。あとこの次の『イット・フォローズ』で主演しているマイカ・モンローが出てるんですよね。時系列ではこちらが後なんですが、この人の今後も気になります。
『イット・フォローズ』は別記事にも書いた通り、「志のある映画」でした。こういう試みが継続的に立ち上がってくるジャンルの未来は明るいなぁと思います。
『ライト/オフ』も同じく「志のあるホラー」という感じで結構よくできた作品でした。性交で「感染」し、ただただ歩いて追ってくる、というネタで撮り切った『イット・フォローズ』に対し、明かりが消えたタイミングにのみ現れる、というネタで撮り切った本作は、そのネタの突き詰め方という点では非常に素晴らしいのですが(マズルフラッシュとかブラックライトとか)、それ以外のところの「迫害された呪いの子」とか「精神病院的施設」とか「強制的な絆」とか、何というかありふれた感じのフレーバーをただ並べた感があって、その辺りが『イット・フォローズ』より一つ下、という位置付けになるのかな、という感じです。
『HiGH&LOW』は一部の人々の異常とも言える盛り上がりに引きずられる形で観に行った作品なんですが、確かに物凄い熱量を持った異常な作品でした。Twitterの方にも書きましたが、冒頭、めちゃくちゃされた街を目にした登場人物が「街がめちゃくちゃじゃねえか!」と怒りの叫びをあげるシーンからしてもう只者ではなく、しかも最後までそのままのテンションということで何というか、目を開かされたような感じです。あと、終盤の大抗争は圧倒的な物量で、それぞれちゃんと殺陣を振り付けられた数百人が画面のそこかしこで熱く激しく戦うというシーンになっており、EXILEというのは一体何百人いるんだろうといたく感心したことでした。
『BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』は、スティーブン・スピルバーグ、マーク・ライランスというビッグネームがまばゆく輝く作品なので、こんなのを『HiGH&LOW』より下にしてるとディズニーから刺客が差し向けられるのではないかと心配になってきますが、もちろん面白くなかったとかではないわけで、つくづく2016年の異常性が際立ちます。個人的にはマーク・ライランス演じる英語が不得手な巨人の「いいまつがい」が非常に素晴らしくて、字幕を担当された松浦美奈さんの奮闘ぶりに目頭が熱くなりました。あれを日本語字幕にしろとか悪夢だよなぁ。
『レッド・タートル ある島の物語』はスタジオ・ジブリの趣味枠というか、興行成績を気にせずにやってる感があって受け取る側も少し面食らうのですが、完成度はやはり高く、文句の付け所のない、隙のない作品です。ただまぁ観ているこっちの側がこういう、全体として一編の「作品」ですよ、みたいになっていて例えば「ストーリー」といったような個別の要素を切り出しにくい類の作品の咀嚼があまり得意ではないので、今の時点ではこの順位かなぁという感じです。もう少し歳をとれば、例えば昔より温泉が好きになったみたいに、こういう作品の相対的順位も上がるのかもしれません。
『帰ってきたヒトラー』は個人的には外せないテーマを扱っている作品で、こういう寸評ではなくちゃんと考察を交えて一本記事を書かなければいけない気がするのですが、とりあえず「映画」として見たときの順位としてはこんな感じの作品です。実験的な要素もありますし、ドキュメンタリー風味も込みで、かつハリウッド的な作劇論とは異なるドイツ映画、ということでどうしても「異色作」というカテゴリに入ってしまうので、まとめてこういうランキングに入れること自体の是非もあろうかという気がしますが、作品としての「意味」「価値」みたいな話だけであれば非常に大きなものがありますので、そこは注釈としてちゃんと書いておきたいと思います。大事な作品です。
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というところで一旦記事を分けることにします。次は41−60位。