[movie] 2016年日本公開映画 個人ランキング 41−60位
続いて41位から60位、まずは51-60位から。
51. X-ミッション52. ロスト・バケーション
53. スーサイド・スクワッド
54. X-MEN: アポカリプス
55. エージェント・ウルトラ
56. インディペンデンス・デイ: リサージェンス
57. ブリッジ・オブ・スパイ
58. ブラック・スキャンダル
59. ウォークラフト
60. エンド・オブ・キングダム
『X-ミッション』はもう本当に「オザキ・エイト」に尽きる映画なんですが、プロットだのキャストだの何だのについて言及するような余力が残らないほどに圧倒的な「絵」と「エクストリーム・スポーツのエクストリームっぷり」が他のゲージまでまとめて振り切るような作品でもあり、もはや映画として評価することの意味自体が薄れてしまっています。6階建てのビルよりも高い波が荒れ狂う海原で、よっしゃ、とばかりにサーフボードに乗っかってクロールしていく人間たちを目にする、というのはそんじょそこらの宗教や哲学では説明できない、深刻なレベルの「業の深さ」の結晶をダイレクトに脳髄に叩き込まれる感があるわけで、なんというか人間は救えねえなぁ、みたいな気持ちになる作品でした。
『ロスト・バケーション』は最近、爛熟というか、もう手もつけられないレベルで拡大しているサメ映画の中で、久しぶりに良心の指針を示すかのような正統派のサメ映画でした。主演のブレイク・ライブリーの熱演もあって非常に手堅くまとまっていて素晴らしいんですが、その一方、正統派ということではやはり「オリジンの壁」みたいなものがあって、サメ映画の宿業みたいなものについて考えさせられる作品でもあります。ひょっとしてサメ映画というジャンルは幻なのではないか、『ジョーズ』一本でそれはもう完結しているのではないか、というこの根源的な問いに、我々が想定しない回答があるのか。今後のこのジャンルにはさらなる注目が必要です。(多分)
『スーサイド・スクワッド』は主演マーゴット・ロビー、戦犯ウィル・スミスによる「こんなんどうやっても傑作になるだろ」という事前の期待を「この手があったか」というがっかりに落とし込んだ非常に罪深い作品でした。それでも順位をこれより落とせないほどに、このネタが好みすぎるわけですが、それにしてもなぁ…予告編の段階でもぜんぜん期待したままだったのになぁ…
『X-MEN: アポカリプス』は端的に言うと
- クイックシルバーの活躍シーンが素晴らしい
- だめろん何やってんの
- ふぁすべん何やってんの
と言う映画で、その3点のみにおいてこの順位という作品です。他にもっとあればもっと上に行けたのに、クイックシルバー除いて一番カタルシスのあるシーンが冒頭のピラミッド崩壊ってのはダメだろう、という。
『エージェント・ウルトラ』はMKウルトラとかその方面が好きな人にとってはヨダレものの作品でもあるんですが、ジェシー・アイゼンバーグがスプーンで人を殺すのが好きだという人にとっても完全にスイートスポットを突いてくる映画です。個人的にはラブストーリーとしての側面を見て行った時のクライマックスも結構気に入っていて、自分がどのカテゴリにいるのかということを改めて自覚させられた映画でもありました。この立ち位置には今後も定期的に回帰したいものです。
『インディペンデンス・デイ: リサージェンス』は今思い返しても何でこの順位なのかよく分からない作品なんですが、何でしょうね。何が気に入ったのか。これが『ブリッジ・オブ・スパイ』より上で本当にいいのだろうか、という疑念が一秒ごとに心の中に充満してきつつあるのですが、とりあえず今改めて見てみたら邦題は「インデペンデンス・デイ」だったのに気づきました。インディペンデンスじゃないんですね。あと噂ではウィル・スミスはこれに出るか『スーサイド・スクワッド』に出るかで迷っていたみたいな話があるんですが、どうせならこっちに出ておいてくれればよかったのに、と切に思います。
『ブリッジ・オブ・スパイ』は一個前とは逆の意味でなぜこの位置にあるのか我ながら釈然としない作品ですが、この後に及んで順位づけを再考しようとすると間違いなく年をまたいでしまうのでさしあたりこのままで。トム・ハンクス、マーク・ライランスの名演が未だに記憶に鮮やかな傑作です。特にマーク・ライランス演じるスパイ、ルドルフ・アベルの「Would it help?」は使い勝手のいい名台詞なので、今後も積極的に活用していきたいと思っています。
『ブラック・スキャンダル』もこんなに下の方に埋もれてていい作品じゃないんですが、感じたことは概ね過去記事の方に書いているのでそこに譲るとして、改めて追記するなら、映画という鏡に映っている現実の社会というものに対する視点、というポイントでしょうか。昨年からずっと「実話に基づく作品」というものについてあれこれと考えているんですが、映画としてそれはどうあるべきか、というところだけでなく、そこから遡って「実話の方が生まれた現実」というものを考えた時に、直接の社会問題としてそれを捉えるある種「真面目」な姿勢だけでなく、そこに「関心」を覚える「興味本位」の姿勢があると思うんですが、その後者について、少し肯定的にそれを受け入れていいんじゃないかという内心の動きが出てきています。この作品についても「ギャング」という要素のさらに向こうに「移民社会」という構造があり、その「移民」というムーブメントの向こうにヨーロッパ側の社会情勢やキリスト教的な文化構造があって、それはまた例えば別の映画とも地続きなわけで、この辺りが本当に面白いというか、趣味・娯楽としての歴史というところと接続して展開していきそうな感じで非常に危険な可能性がチラ見えしている状況です。この辺りは来年も引き続きフォローアップしていきたいと思います。
『ウォークラフト』は封切り日に六本木で観たんですが、やはりその時の劇場のメンツの特異さが忘れられないという点で、非常に興味深い「経験」でした。ダンカン・ジョーンズということで期待していた部分は正直、さほど報われなかった感じもあるのですが、その辺りも含めた「体験」としてこの位置、という感じです。
『エンド・オブ・キングダム』は前作でのホワイトハウスに引き続いてジェラルド・バトラーの二の腕とアーロン・エッカートの顎とモーガン・フリーマンの白髪を舞台にキングダムがエンドするという作品で、今年の二大「エッカートがブレース・フォー・インパクト」映画の一本でもあります。観るものの苦笑交じりの賞賛を誘う「お前何やってんだよ」的な長回しも印象的ですし、「Marine-1 out of flare, Marine-2, prepare to sacrifice」も声に出して言いたいセリフ2016年の大賞候補ですし、もっと上でもいいような気がするんですが、とりあえずこの位置で。それにしても『ホワイトハウス・ダウン』の副大統領がモーガン・フリーマンでなかったとすると一体誰だったのか…
続いて、41-50位、気持ち的にはこの辺りが今年の平均値みたいな感じです。
41. 追憶の森
42. グランドフィナーレ
43. クリード チャンプを継ぐ男
44. 10 クローバーフィールド・レーン
45. コップ・カー
46. マネー・ショート 華麗なる大逆転
47. ストレイト・アウタ・コンプトン
48. ボーダーライン
49. SPY/スパイ
50. ジャングル・ブック
『追憶の森』は、「自分的にこういうのは嫌いじゃない」とあらかじめ注釈を置いた上であえていうと、「ガス・ヴァン・サントと渡辺謙とマシュー・マコノヒーがそれぞれナルシスティックな自慰的志向に走って好きにやった同人誌的寄せ書き作品」みたいな感じがあります。もちろん全員、それぞれの才能の持ち主なので、コラージュ的な見方をするとやはり見事な完成度なのですが、一本の映画としてどうかというと全体を貫く強い作為の柱みたいなものがあまり感じられないのでその方面でのカタルシスに乏しいという。しかしそれを踏まえた上でも、東西の顔面俳優の両巨頭が並び立つ顔面演技の奔流には圧倒的な力があるわけで、その辺で41位まで来た、ということなのでしょう。(他人事)
『グランドフィナーレ』は別記事の方に割と思いの丈をしっかり書き留めておいたのでここでは割愛しますが、改めて今年の映画全体を振り返ってみると『帰ってきたヒトラー』と期せずして繋がる部分があったりして面白いですね。リアルタイムではスルーしてしまいましたが、あのシーンも良かった。
『クリード チャンプを継ぐ男』は実際には2015年公開作なんですが、私が観たのは今年に入ってからなので、ここで扱っています。自分の中では、今年、何本かあった「アイデンティティ」にまつわる傑作の一つなのですが、本当に今年は傑作が多くて難儀な感じです。まさか43位まで後退してくるとは…詳細は別記事の方で。(最初に書いた通り、タイトルのリンクは公式サイトまたは当ブログの該当作品についての記事に飛ぶリンクです。)
『10 クローバーフィールド・レーン』は個人的にはスマッシュヒットだった『クローバーフィールド』と同じ世界での別のシーンを描いているということで期待を抱いて観に行ったんですが、良い意味で裏切られたというか、J.J. エイブラムスの野郎にまたしてもいっぱい食わされたというか。「続編」ではなく、「同じ世界の別の物語」という回りくどい言い方をしている理由も今ならわかるんですが、完全に別ジャンルというか別テーマの作品なんですね。多くを語ることは憚られるタイプの映画なのですが、とにかく「ジョン・グッドマンが髭を剃ってきた」というあの戦慄は今後も長く語り継がれていくであろうという予感がします。
『コップ・カー』は別記事に散々書いた通りのケビン・ベーコン・ムービーであって実際のところそれ以上に語るべき言葉もないのでさらっと流すことにしますが、あのメカニカルに進行するプロットの心地よさというのは私が映画に求める価値の中でも主要なものの一つなので、本作の監督ジョン・ワッツには今後期待していきたいと思います。
『マネー・ショート 華麗なる大逆転』も別記事に割としっかり書いているのですが、改めて考えるとキャスト陣の丁寧な演技が光った作品でした。クリスチャン・ベールももちろんそうなんですが、スティーブ・カレルは昨年の『フォックスキャッチャー』に続いて、守備範囲をさらに貪欲に広げてきているような凄みがあります。もう一回観てもいいなぁ。
『ストレイト・アウタ・コンプトン』は『HiGH&LOW』とともに、今年の「映画との関わり方」を象徴するような作品だったりします。要するに「今までだったらそもそも観に行こうとも思っていなかったであろう作品」ということなんですが。2016年を振り返るともちろん例年になく豊作だった、ということがまず第一にあるとは思うんですが、それに対して自分もまた随分と積極的に飛び込んでいったという側面があって、それはもっというと、Twitterを軸に日本の「映画に関わる世界全体」が一種の励起状態のような状況になっていたということでもあるような気がするわけです。もちろん、あくまで自分自身についての特異的な出来事だったのかもしれませんが、例えば一連の邦画の興行収入とかを見るにつけても、割と普遍的な「社会レベルでの動き」だったのではないかと思えています。この辺も来年、継続していくのか、あるいは一時的な盛り上がりに過ぎなかったのか、興味深いところです。映画本編については、別記事の方で。
『ボーダーライン』も別記事参照ですが、とにかくベニチオ・デルトロによるベニチオ・デルトロが猛威を振るっていて、すでにシリーズ化が決定しているとのことですので今後に是非期待していきたいと思います。あとは撮影のロジャー・ディーキンス。ある意味、ハリウッドの至宝だと思うんですが、今後も末長くこういう素晴らしい絵を撮り続けてほしいものです。
『SPY/スパイ』は今年のダークホースというか、全く事前情報とかも取得せずにたまたま出会い頭に、的な出会い方をしたのでうまくハマったというか、作品自体が映画の外から仕掛けているツイストを完全に不意打ちで食らうという形になってしまったために恐らくは平均的な鑑賞者以上に楽しめたのではないかという気がします。まさに、「まさかこんな映画だとは思わなかった」的な。ということで個人的には大変面白かったわけですが、改めて考えると007シリーズが築き上げた「スパイ活劇もの」の背骨というのがいかに強靭かつふくよかなものであるか、ということもあるわけで、伝統の上にいろんな変わり種の花が咲き誇る、というのは文化として極めて正しい「あるべき姿」だなぁというようなことも思ったりします。
『ジャングル・ブック』は極めて「ディズニー的」作品で、あらゆる側面が「ディズニー」なのですが、それでも特筆すべきはすべてCGで描かれた動物たちのボイスアクターとして参加している名優陣の凄みでしょうか。特に怪しい大蛇カーを演じるスカーレット・ヨハンセンと猿の王キング・ルーイを演じるクリストファー・ウォーケンの歌はそれぞれ鳥肌ものでそのためだけにでもこの作品を観る価値があるレベルでした。エンディングのスタッフロールもそつなく見事です。
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ここまででまだ半分に届かないということで非常に辛くなってきていますが、とりあえずもう少し頑張ります。