[movie] 2016年日本公開映画 個人ランキング 1-5位

ということで、数多くの傑作に恵まれた2016年、個人的に最も素晴らしかったトップ5です。1作ずつ、改めて。

5位 『ハドソン川の奇跡』

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実際のところ、2016年、2大「アーロン・エッカートがブレース・フォー・インパクト」映画の一角でもあるのですが、この映画についてはやはり監督のクリント・イーストウッドの底知れなさというか、「地力」のレベルの高さを思い知らされる作品という印象がやはり強く残っています。一大巨編ということでもなく、特に構えたところもなく、さらっと作っているような感覚すらある(上映時間96分という短さ)にもかかわらず、鑑賞後の気分というか、むしろ精神のあり方とでも呼ぶべきレベルのものに強く影響するような作品です。何といっても結びのセリフが素晴らしい。

あと、IMAXで観たときだけ、アーロン・エッカートの白い靴下が見える、ということでIMAXの優位性を世間に知らしめた作品でもありました。あれは尊かった。

4位 クリムゾン・ピーク

CrimsonPeak

別記事でも書いた通り、ギレルモ・デル・トロ監督の「ゴーストに対する優しい眼差し」が全編に滲んだ、ゴシック・ホラーともちょっと一線を画すような独特の世界観を美しいキャスト陣が煌びやかな実像と虚像に同時に現出させた傑作でした。監督自身の趣味性の結晶のような作品なので、トム・ヒドルストンの人気をもってしても一般受けはおそらくしなかったのだと思いますが、こういう作品があってこそのメインストリームという面もあるので、デル・トロ監督には今後もお世話になっていきたいと思います。

3位 オデッセイ

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例年であればぶっちぎりのベスト1であっても全く不思議のない、正統派SFのド傑作です。アンディ・ウィアーの「火星の人」の映画化なのですが、原作も素晴らしく、そこから脚色の入った映画もまた劣らず素晴らしくて、一介のSFファンとしては非常に幸せだったわけですが、映画化という観点でのストーリーの脚色の素晴らしさというのはあるにせよ、やはりこの作品については原作の素晴らしさを抜きに語ることはできない気がします。この映画は例えばサントラも素晴らしいわけですが、それも元をたどれば原作にもその根っこがあったりするわけで、この映画については原作未読の方には是非原作の方も読んでもらいたいと思います。

というか単純に、原作付きの映画化作品で、映画化に文句をつける人をほとんど見かけたことがない、というのは、実はこのご時世ではとんでもない偉業なのではないかという気もします。個人的な感覚かも知れませんが、例えば劇中に流れる「スターマン」が呼び起こす感動の瑞々しさとでもいうべきものは、読書の中で得られる感動とはまた少し異なるものであって、そうして生まれた別れイヤーの感動が原作の再読においてまた新しい感覚を生じさせるような、理想的なフィードバックが起きる、そういうナイスな構造ができあがっていたように思います。実に稀有で幸福な体験でした。

2位 スポットライト 世紀のスクープ

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先の記事で今年はリーヴ・シュライバーの当たり年というようなことを書きましたが、これこそがその頂点とも言える作品です。そしてこの作品の真に凄まじいところは、そのリーヴ・シュライバーの頂点に対し、優りこそすれ決して劣るところのない素晴らしい演技を、マイケル・キートンとマーク・ラファロもまたそれぞれ叩き込んできているというところなわけです。別記事で書いたようにこの作品もまた「実話に基づく」作品で、かつ、この作品については、この「実話」のところが異常に重い事件であるという特異性があります。であるにもかかわらず、映画としてのこの作品が、卓越したキャストの演技により、その「質量」において、「事実」に正対しうるレベルに達していること、そしてそれによって観客もまた「適切に」その根源の「事実」に向き合わされるというか、正しく導かれるような形になっているというのが、この作品の一つの真価ではないかと思います。

もちろん、事実を題材にそのテーマを観るものの魂に注入するという側面だけでなく、エンターテイメントとしても異常に高いレベルで完成していて、すでに触れたキャスト陣の演技だけでなく、例えば脚本もキレッキレに研ぎ澄まされていて、なんというか全く隙のない完成度の高い映画でした。これがあっただけでも2016年は素晴らしい映画に恵まれた年だったと言えるような作品です。

そしてそれすらも押さえて本年1位に輝いたのが、こちら。

1位 ちはやふる −上の句−

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でした。もちろん、映画としての完成度とかキャストの演技力や脚本の緻密さといった点でこの作品が例えば『スポットライト』や『オデッセイ』に勝るということではないわけですが、そういう評価基準から逸脱したところで自分がどれだけ「揺さぶられたか」という一点において、この作品はある意味ぶっちぎりのトップ1でした。中身については別記事で書いているので繰り返しませんが、とにかく終盤の三段ロケット構造は自分の心の中のスイートスポットのさらにど真ん中に突き刺さり、貫通した挙句にそのまま体ごと大気圏外にぶっこ抜いていくような、残酷なまでの精密性と苛烈なほどの推進力を持っていたわけです。

私はそもそも「邦画を観ない人」だったわけですが、2016年、この作品がそれを根本的に転換させてしまった感があります。この作品(および『下の句』)と『シン・ゴジラ』と『君の名は。』はそれぞれ何回も劇場に足を運んで繰り返し観たんですが、その結果、「今年1年間、劇場で邦画を観た回数」は「去年までの人生全部で劇場で邦画を観た回数」をはるかに超えることになりました。個人的には今年を機に「日本映画」に対する姿勢が間違いなく変わったわけですが、実のところこれは必ずしも「個人的」な話にとどまらないのではないかという気もしています。巷では今回、自分のランキングで取り上げている作品以外でも、『この世界の片隅に』などこれまでではおよそ考えにくかったような例外的な成功を収めている作品が話題になっているわけで、この調子でいくと邦画がさらに盛り上がり、国外からの映画と相互に市場を刺激しあってさらに映画界全体の隆盛につながるのではないか、という楽観的な想像さえ湧いてきます。

2016年は本当に良い映画に恵まれた1年だったわけですが、その意味ではさらに来年以降により大きな期待を抱かせるという、映画ファンにとっては幸福この上ない年だったという気がします。今年はついにTOHOシネマズ六本木ヒルズの1ヶ月フリーパス(シネマイレージ9000マイル)にも手が届いたわけで、その辺も活用しつつ来年もより一層、映画を楽しんでいこうという新たな決意をもって、2016年の映画の総括としたいと思います。

 

 

 

 

なお、78位は『ザ・ブリザード』でした。ケイシー・アフレックのゆで卵がなければ許してないところですが、それがあるので今年は駄作なし、ということで。