[movie] レヴェナント: 蘇りし者
アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督が前年の『バードマン あるいは (無知がもたらす予期せぬ奇跡)』に続いて二年連続のアカデミー監督賞を受賞し、かつ、レオナルド・ディカプリオに悲願の主演男優賞をもたらしたクマ映画です。クマ度について言えば、ハリウッド映画史上に新たな金字塔を打ち立てたと言っていいのではないかと思われるレベルで、クマの大きさやその膂力だけでなく、息遣いや重量感、体毛のゴワゴワ感までをしっかり描き切った手腕は見事という他ありません。
またこの作品を語る上では撮影監督のエマニュエル・ ルベツキ(彼も『バードマン〜』に続いて撮影賞を受賞しました。その前の『ゼロ・グラビティ』から数えて何と三年連続)の存在も欠かせないわけですが、この人もまた自分の立ち位置をフルに活かして好き放題やっていて、特に全編を通じてほぼ自然光のみで撮影、という現代の映画作りの中では狂気としか言いようのないこだわりで物凄い「絵」の奔流を生み出しています。
実際、本当に凄まじい作品なわけですが、このイニャリトゥ監督の作品というのは、私自身が無意識に映画というものに対して想定している「体裁」とか「フォーマット」的なものがすり抜けてしまうというか、投射しようとするこちらの期待とあまり互換性がなくて、その部分が期せずして独特の味わいを生んでいるような気もします。何というか、イニャリトゥ監督は「映画」というものを「制作」するというよりは、自分の「作品」という、映画云々以前のもっとプリミティブな輪郭を持つ何かをフリーハンドで「デザイン」しているような、と言ったらいいんでしょうか。
そういう意味では、この作品はもちろん素晴らしいわけですが、あくまで個人的な感覚としては、それは映画という定型の評価軸上の素晴らしさというよりは、イニャリトゥ監督が、ディカプリオの鬼気迫る演技だとか、ルベツキの研ぎ澄まされた「画」力を思いのままに組み上げて作った156分という「経験」の素晴らしさという気がするわけです。
この辺りは個人の好みもあると思うんですが、何よりもまず「ストーリー」という要素の位置付けが希薄というか、例えば『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が、ストーリーの純度を高めた結果、「神話」のように抽象化・普遍化された、という言い方をするなら、今作はさらに抽象化が進んだ結果、ストーリーという枠組みすらも脱却して「星座」になってしまったというか。プロットとして「紛糾」が提示されて「解消」に至るという当たり前の流れが、ほとんど透明と言っていいレベルになっているように感じられます。なので、今作が非常に高く評価され、監督賞、主演男優賞、撮影賞を獲得しつつも作品賞受賞には至らなかったという結果は割としっくりくるというか。
ただそれはもちろん、この作品が映画としてどうだこうだ、ということではなく、やはり極上の逸品であることは論を俟たない話であって、ため息どころか魂が漏れそうなほどに美しい映像の中、ディカプリオの全身全霊をかけたような演技を堪能するというのはちょっと他では得がたいような素晴らしい時間には違いありません。(というか、本当に今作でのディカプリオの演技とルベツキの映像はちょっと常軌を逸しています)
というようなことをつらつらと思うわけですが、とりあえず作品を堪能して、そしてしばらく時間をおいて消化吸収もひと段落終わった上での結論としては、ディカプリオおめでとう、という感じではあります。あとクマとかよかったなー、みたいな。
なお字幕は松浦美奈さんでした。本当に当たり年です。