[movie] クリムゾン・ピーク
1/8に『ブリッジ・オブ・スパイ』、『イット・フォローズ』と同日公開されたギレルモ・デル・トロ監督、トム・ヒドルストン主演の、ゴシック・ホラーというかゴシック・ロマンスというか、トム・ヒドルストン映画です(いい意味で)。以下、今回はちょっと踏み込んで書いていますのでネタバレ注意です。
もうすでにいろんなところで言われているのでここで繰り返す必要もないんでしょうが、画面はもう本当に美しく、ヒロインを完全に食ってしまっている感のあるトム・ヒドルストンとジェシカ・チャスティンの顔力もあって強烈な「うつくし映画」に仕上がっています。
とは言いつつも外見だけで中身がないか、というとそうではなくて、一方ではギレルモ・デル・トロの趣味が炸裂しまくっていて、「お前雪が赤く染まる絵を撮りたかっただけだろ」というのが丸わかりな「血のように赤い粘土が産出する山のお屋敷」という舞台設定であったり、特に必然性もなく頻出してくる蝶や蛾のクローズアップであったり、何かと言えば頭を割られて死んでいる人が出てきたり、もう中身もデル・トロの赤身と脂身でぎっちりという感じです。
で、もっというと、ストーリーも、いや、これかなり良いですよ?
劇中、ワルツのシーンが出てきて「真に優雅な踊り手を見極めるには、手に火のついた蝋燭を持たせて踊らせればよい。火が消えなければ本物だ」みたいな話があるんですが、物語はそのセリフが一つの宣言だったのではないかと思わせるように実にスムーズで、登場人物の魅力にきらびやかに飾られながら、実に滑らかに進んでいきます。これがまた実に心地よくて。かつ、鍵束をあえて放置するプロットとかクライマックスのトム・ヒドルストンの「君は医者だ」とか、実に軽妙かつ巧緻なステップを踏んでいくわけです。この構成と脚本は結構、侮れません。
そして本作で一番大事なところですが。
デル・トロ監督といえば『パシフィック・リム』もありますが、そもそも『パンズ・ラビリンス』とか『MAMA』の人なんですよね。で、今回この『クリムゾン・ピーク』を観て再認識したんですが、やっぱりこの人、「ゴーストが好き」なんだなぁ、と。「ゴースト」に対して、とても優しい。ホラー映画にカテゴライズされる作品ではありますが、この映画に出てくるゴーストも、やはり人を傷つけないんですよ。自分を殺した相手に対する復讐すらしようともしない。基本的に、ゴーストの方が人に優しいという。これはデル・トロ監督の割と根っこのところではないかという気がします。
そういう「ゴーストへの優しい眼差し」(なんだそれ)を踏まえてみると、このお話はある意味、『パンズ・ラビリンス』にも通じる側面が出てくるというか。この作品は、「ゴーストの話」とか「幽霊屋敷の話」というよりは、不幸に晒されて傷つき歪みながら苦しんでいた人間が、「ゴーストになる話」であり、その舞台が「幽霊屋敷になって」一つの救済を迎える物語、という気がするわけです。ヒロインであるイーディス(ミア・ワシコウスカ)観点で見れば割と悲惨な話ですが、ある意味、生きてるんだから後はどうとでもなるだろう、という放り出され方をする一方で、ラストシーン、もう一人のヒロインであるルシール(ジェシカ・チャスティン)は、ピアノを弾いているんですよね。監督は明白にそちらを向いていて。
というか、まぁデル・トロは明らかに生きている人間には興味がないんですが、そういう振り切った撮り方をする作り手はいいなぁ、というお話でした。
もしくは、ヒドルストンのあのチャーミングっぷりはもはや鬼畜レベル、というお話です。