[movie] グランドフィナーレ

英国が誇るおじいちゃん俳優マイケル・ケインを引退した音楽家として主演に配し、「老い」ということ、そして「人生の幕引き、あるいは清算」ということを鮮烈に描いたパオロ・ソレンティーノ監督作品です。邦題は『グランドフィナーレ』ということでやや仰々しくなっていますが、原題はシンプルに『Youth』というちょっとピリっとしたタイトルになっていて、この舌に触る辛さというか風味のようなものが、この作品の肝のような気がします。苦いような辛いような、一粒で何百円もするようなチョコレートのような味わいというか。

自分自身が中年時代もそろそろ後半戦に入ろうかという歳になり、また自分の親の人生というものを、自分とは別の個人のものとして客観視できるようになって、この「老境」というものがまた違った見え方をしてきている昨今、この手の作品はこそばゆいほどに深く響いてくるわけですが、今作についてはマイケル・ケインだけでなくハーヴェイ・カイテルとジェーン・フォンダがまた非常にあざとい演技をしていて大変困ります。特にジェーン・フォンダはスクリーンに出ている時間はほんのわずかなんですが、その登場シーンも退場シーンも研ぎ澄まされまくっていて、様々な人生を歩んできた登場人物たちが、その人生の終幕に向き合う、というプロットに、単純な「ほろ苦さ」以上のものを添えています。この辺りはもうさすがという他ないんですが、それにしてもジェーン・フォンダのこの登場シーンよ。

主演のマイケル・ケインの方も、これはもう、そこにいるだけで「老い」というものが瑞々しく描かれてしまうレベルのおじいちゃん俳優なわけですが、その彼が演じる主人公の「人生」を織り上げている、彼自身と、娘と妻、そして彼の作品「シンプル・ソング #3」の「組み上がり方」は実に巧みで、ストーリーの構造自体にため息が出るというか、迂闊にシンプルな共感を抱くと壊してしまいそうで、取り扱いに躊躇いを覚えるほどです。

いつか自分の人生を手にとって眺めてみて、それ以上付け足すものも引くべきものもない、と思う時があったとして、それが満足なのか諦観なのかは分かりませんが、そういう思いを持って、それをたとえば日の差す部屋の窓辺に置いていくような、そういう幕引きができるとしたら、というようなことを思う映画でした。何が言いたいのかよくわからない感じですが、まぁそんな感じの。

なお、字幕は松岡葉子さんでした。