[movie] ザ・ウォーク

The Walk JP ロバート・ゼメキス監督、JGLことジョゼフ・ゴードン=レヴィット主演の、「実話に基づく」です。ロバート・ゼメキスといえば押しも押されもせぬ『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズの監督ですが、個人的には劇場で観るのは1994年の『フォレスト・ガンプ』以来になります。

今年ここまで8本観て、実に5本目の「実話に基づく」で、ハリウッドは本当に大丈夫なのか、と心配になってきていたんですが、そんな心配も強烈なビル風で吹き散らしてくれる、極めてパワフルな作品でした。これです。こういう「ものすごい実話」を土台に、さらに「とんでもない映画体験」に引き込んでくれる二段階推進ロケットが観たいわけです。

話の筋立てはシンプル極まりなく、「変人が地上400メートル以上の高層ビルの間を『綱渡り』する」というもので、ネタバレもへったくれもありません。結末は最初から見えていて、何が怖いかも最初から分かっている、バンジージャンプのような映画です。事前に設定されている「目標」は「綱渡り」をどう描けるか、というこの一点だけ。

…ではあるんですが、映画全体の作りは実にロバート・ゼメキスで、クライマックスの実際の「綱渡り」に至るまでの語り口が実に特徴的というか、『フォレスト・ガンプ』でも印象的だった、ちょっとしたCGによる「幻視のアクセント」がちょこちょこと挿入されていて、ゼメキスのテンポに観客を巻き込んでいきます。正直、2016年の現在では、その細かなステップの設計に乗り損なう人もいるのではないかという気がするのですが、たとえば若き日のフィリップ(JGL)が独学で綱渡りを練習していくシーン、だんだん消えていくロープとか、時間の経過と彼の技術の向上を表現するのにくどくどと尺を使わず、わずか数秒の1カットで済ませる、というものすごく効率的なプロット運びで、その瞬発的な加速がある意味で観るものの足をすくってあとはなすがままに運ばれていく、という構造がデザインされていて、そこはもう乗るに限るわけです。そこからがゼメキスというジェットコースター。

で、このジェットコースターの最大のクライマックスである実際の綱渡りシーンについては、これについてはもうただただ自分で「体験」するに限るので多くは語りませんが、「綱渡り」自体については事前に明らかになっているにも関わらず、それでも人の予想を遥かに超える、というとんでもないことを達成していて、この辺りもゼメキスという巨大な凶器が観客を本気で殺しにきます。巨匠のくせにおとなげない。本当におとなげない。もう本当におとなげない。映画終わった後、手汗がものすごいことになっていたんですがさらに家に帰ると靴下に靴の色が写っていてどうやら足汗までかいていたようです。観ている間、頭の方はある意味で「歓喜の悲鳴」を上げていたんですが、体の方は相当しんどかったようで。

そしてその一大クライマックスの後で静かに収束していく終盤、個人的には実に鮮やかだと思う「裏面」の提示が行われます。ある意味で淡々と進行していたようにも見えた中盤で提示されている様々な要素がパタパタと再展開されて、繋がり直すというか。ここもある意味で『フォレスト・ガンプ』に通底すると思うのですが、この映画のメインプロットである、フィリップ・プティという稀代の変人や彼の「ザ・ウォーク」を描く流れの中でもう一つ組み込まれていた、ゼメキス自身の、アメリカという国、ニューヨークという街、そこに住む人々に対する大きな思いがファンファーレをともなって立ち上がってくるんですね。この辺も実に「おとなげない」というか、お前それ個人的なラブレターじゃねえか、みたいな感じで何とも清々しい感覚が残ります。実に爽やかな私物化。まぁそもそもこの映画は彼の私物なので異論は全くないわけですが。で、また私はこの手のネタに本当に弱いので、綱渡りで滅多刺しにされてよれよれになっていた魂はラストシーン、金色に輝く塔を登って見事に昇天していきました。南無阿弥陀仏。

芸達者なJGLやベン・キングズレー、ヒロインを好演したシャーロット・ルボンも一見の価値ありですが、とにかく「実話に基づく」のお手本のような作品でした。