[movie] シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ

civilwar ルッソ兄弟を監督に迎え、いよいよ脂が乗り切ってきた感のあるマーヴェル・シネマティック・ユニバースの最新作『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』、シリーズとしては『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』に続くキャプテン・アメリカのシリーズですが、アイアンマンを始めとするほぼフルキャストで、ストーリー的にも『エイジ・オブ・ウルトロン』を受けて展開する、まさにMCUの中心線、根幹となる作品です。

この作品についてはゴールデンウィークの公開に向けて、かなり前から大々的に売り出されていて、それこそ恐ろしい数の予告編を、目を閉じ耳を塞いでやり過ごしてこなければいけなかったのですが、それでも微かに聞こえてくる「Sometimes I want to punch in your perfect teeth」とか「So was I」とか、トニー・スタークのセリフが突き刺さってきて、それはそれは辛い日々でした。何というか、言葉しか入ってこない分、かえって響くというか。100%素で、演技などしていないかのように錯覚しがちなロバート・ダウニー Jr. ですが、声だけ取り出すと俄然際立ってくるところがあって、その確かな演技力に危険なレベルの「やるせなさ」をひしひしと感じていたわけです。

ただまぁそれゆえに、準備運動的な状況も発生していて、本作のエモーショナルな部分はすでに「展開」が済んでいたというか、逆に蓋を開けてみると、それ以外の部分、ユーモアであったり脚本のキレであったりアクションであったりバトルシーンであったり、そういうところの圧倒的なレベルの高さが前にせり出してきて、出したお金に見合う以上の物凄い「クォリティの塊」がどんどん流し込まれてくる極上のエンターテイメント経験でした。もはや肌が潤うレベル。

特に序盤のカーチェイスは、カーチェイスに「走るスーパーヒーロー」が混ざるという、シンプル極まりないにも関わらず、抜いた度肝をそのままがっちり掴んでいくような素晴らしい構成になっていて、シリーズを重ねながらちゃんと一段ずつ自分で上げたハードルを越えていく、信頼感さえ覚えさせる偉業には敬服するほかなく。

他にも空港のシーンでの、アイアンマンのスーツにアントマンが侵入するという大喝采もののアクションプロットとか、スパイディの絡ませ方とか、ユーモア方面では「浮いてるだけで面白いヴィジョン」とか車の中でのサムとバッキーとか本当に全編にわたって拾いどころが盛りだくさんで、それはもう気持ちよく楽しんでいたわけですが。

そのままでは終わらないのが最近のMCUです。

最後の展開がもうエモくてエモくて、本来なら使いたくない「エモい」という言い回しを重ねて使わざるを得ないレベルでエモいです。ほんとに。

最後のバトルは、バトル自体も非常に「魅せる」作り込みがされているんですが、やはり最後の最後。キャップに組み敷かれたトニーが思わず首を庇うシーン。命を取られると思った自分自身、それは裏返せば自分は殺すつもりだったということを悟り、同時に相手は殺し合いではない「何か」として戦っていたということを理解し、それでも許すことができず、盾を捨てていけと吐き捨て、相手はそれさえもただ受け入れて去る。あんなに「おもしろ要素」山盛りでサービス精神に溢れかえってた作品が、こんな酷な終わり方をするなんて。

そして畳み掛けるように「鍵は変えてくれてもいい」とか、何のラブストーリーだよ、という真の幕引き。「キャプテン・アメリカ」のシリーズなので、主人公である本人がおいしい感じになるのは仕方ないと思うんですが、これじゃ残されたヒロインのトニーが心を残してしまうじゃないか!みたいな義憤すら覚えます。出ていくならちゃんと振ってやれよ、みたいな演歌の世界というか。

とはいえMCUのメインの話はまだまだ続いていくわけで、この先の展開でまた「アセンブル」する必要があるので、ここは社長に堪えてもらいつつ、『アベンジャーズ:インフィニティ・ウォー』に向けた今後を楽しみにしていきたいと思います。

なお字幕は林完治さんでした。また今作は一回目はレーザーIMAXで公開日に2回観るという僥倖にも恵まれ、関係各位には改めて感謝の意を表したいと思います。おかげで『アメリカ・ワイルド』という、そうでなければ巡り会えなかったであろう作品にも出会えました。僥倖々々。

[movie]  黄金のアデーレ 名画の帰還

本当は2015年中に観ておきたかった一作だったのですが、いやいやいや、大傑作ですよ。これを観てたらまたランキングが面倒なことになってましたね。

この作品は、語弊はありますが、言ってしまえば、演出は凡庸で、演技などにも特筆すべきところはありません。しかし、映画というのは、作り手や演者が才覚を見せびらかすまでもなく、傑作として成立しうるのだということがよく分かる作品というか。もちろん、ヘレン・ミレンの演技が下手とかそういうことではなく、といって「抑制の効いた」演技ということでもなく、主張の匂いをさせないというか、あえていうなら「正直」という言葉が奇妙にはまるような感覚があります。

もちろん大前提として、この作品もまた、去年から散々湧いて出てきている「事実に基づく」系であって、例によって「史実」のパワーに乗っかった作品であるのは間違いないんですが、その扱いに「他意」が感じられないんですよね。色気を出していないというか。サイモン・カーティス監督の作品は他に観たことがないので、非常に乱暴な物言いになりますが、この人は何というか、すごく「普通の人」なのかなぁという気がしています。

そんな感じなので、正直、もう少し…と感じられる部分もあるのはあるんですが( 例えば雑誌記者フベルトゥスの絡め方とか)、その一方でそもそも肖像画のモデルとなったアデーレ役のアンチュ・トラウェが完璧だとか、ローダー家の人がやけにキャラ立ちまくってるとか、何やかやで帳消しというか。

まぁ2015年のランキングでも書きましたが、ナチスに収奪された美術品をあるべき人の元へ返す、っていう時点でガタガタ言わずに応援しろ、という話なんですが、やっぱりこういうのにつくづく弱いです。法廷劇風味とかは薄くて、アカデミー賞女優ヘレン・ミレン!とか『ラッシュ プライドと友情』のニキ・ラウダ役のダニエル・ブリュールが!とかいうのもあんまり効いてないつくづく味付け控えめな映画なんですが、映画として優れているかどうかはさておき(おいちゃうのか)、すごく好きな映画でした。『ミケランジェロ・プロジェクト』と並んで、「ナチスから美術品を取り戻す映画」の最高峰と言っていいでしょう。2016年ランキング暫定一位です。(まだ一本しか観てない)

しかし、原題 'Woman in gold'が劇中で意味を持つキーワードとなっていることを考えると、この邦題はどうかなぁ、という気がちょっと。