[movie] ボーダーライン

エミリー・ブラント主演、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督による、ベニチオ・デル・トロ映画です。もう果てしなくベニチオで、救いようもなくデル・トロ、ところにより一時ジョシュ・ブローリンという感じに突き抜けた作品です。

今作は「実話に基づく」ではないんですが、極度にエスカレートしたメキシコの麻薬とマフィアの問題を題材に、絵空事ではない背景をベースにしつつ、エミリー・ブラントをダシにして執拗にベニチオを描いています。邦題はわざわざ『ボーダーライン』として、ポスターでも「善悪のボーダーラインは云々」等と「親切設計」に改めているわけですが、そもそも原題「Sicario」は、メキシカン・ドラッグ・カルテル界隈では「Hitman」的な意味で使われる言葉だそうで、明確にベニチオ・デル・トロ演じるアレハンドロ自身を指しています。

たしかにCIA主導のいかがわしい超法規的捜査だったり、それに巻き込まれた女性捜査官ケイト(エミリー・ブラント)の、自分自身の正義との葛藤だったり、あるいは舞台であるアメリカとメキシコの国境そのものと、そのこちら側と向こう側での世界の対比だったり、「ボーダーライン」というものが非常に大きな、作品の主要モチーフであることは間違いないんですが、やはりこの映画はベニチオ・デル・トロが演じるアレハンドロの映画だと思うわけです。

キャラクターの造形としてはある意味でシンプルな「復讐者」ではあるんですが、これをベニチオ・デル・トロが演じていることで意味が生まれているというか。終盤、麻薬王と食事の席で対峙するシーンなどは、それ自体がこの映画の「コア」と言っても差し支えないレベルになっています。

また撮影監督のロジャー・ディーキンスがまたしても地位と名声をいいことに(しているかどうか知りませんが)「好き放題」やらかしていて、前半の高速道路のシーンもまたこの映画の「コア」と言っても(以下同文)

ということで、善悪の彼岸此岸といったいかにもそれっぽいテーマなどはさておいて、「映画」を作ろうとして「映画」を作った、というような動機の純粋さが心地よい作品です。あと個人的には、『ゼロ・ダーク・サーティー』が開いた新しい何かを、ハリウッドとしてフランチャイズ化していくような戦略的な思惑もあるのかなという気が。続編の話もすでにあるようで、こういうソリッドでドライな背景と舞台に、裏面に秘めたウェットさをほのかに滲ませるような感じでベニチオ・デル・トロのシリーズが続いていくならそれはそれで大歓迎ではあります。

字幕は松浦美奈さん。今年は当たり年ですね。